負債の承継を遺言によって指定できますか

2021年11月30日 16:42

負債の承継を遺言で指定する場合には債権者との調整も含めた事前の準備が必要です

遺産分割の方法は、審判・調停を除いて、協議分割と指定分割とがあります。
文字どおり遺産分割協議による分割と、遺言による相続分・分割方法の指定です。
遺産の中にはプラスの財産以外に、マイナスの財産である負債も含まれます。
遺産分割協議を行う場合であれば、負債をどのように返済するか共同相続人間で話し合い・負担しあっていくことも可能ですが、遺言により指定をされた場合はどうなるでしょうか。
 例えば、長男・長女・二女の三人が相続人であった場合に、長男に全財産を相続させる旨の遺言があった場合はどうなるでしょうか。
原則として、全財産に含まれる負債も全て長男が相続するということになります。
しかし、遺言による全財産の指定は当該共同相続人内部の問題であり、相続債権者の関与なくされたものであるため、相続債権者との関係では効力が及ばないと解するのが相当であるという理由から、遺言による相続分の指定にもかかわらず、相続債権者は法定相続分に従った相続債務の履行請求が可能であると判示されています。
 この点、改正相続法で判例の趣旨が以下のように明文化されました。
「被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、遺言による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、法定相続分及び代襲相続人の相続分の規定により算出した相続分に応じてその権利を行使することができる。(第902条の2)」
 つまり、前述の例で言うと、長女と二女は法定相続分に応じた債務の承継を免れることは出来ないのが原則となります。
 しかし、改正相続法には以下のような但書があります。
「ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない(第902条の2但書)」
前述の例で言うと、全財産を相続する長男が債務も全額相続する(長男が全て返済する)ということを債権者が認めたときは、長女と二女は法定相続分に応じた債務の承継を免れることができることになります。
 あくまでも、債権者が承認した場合ですから、承認してもらうように働きかけないといけないわけです。
遺言執行時に行うこともそうですが、遺言作成時にもその点は大丈夫か確認する必要があるでしょう。
 万が一、債権者が承認してくれなくて法定相続分に応じた債務の承継を免れることができない場合には、前述の例で言うと、長女と二女は指定相続分がないので相続放棄の手続きをとるという選択肢があります。
相続放棄をしないまま、長女や二女が法定相続分に応じた債務を承継し負担した場合には、共同相続人間で”求償関係”が生じ、長女や二女は長男に対して事後的に求償することができる、というのが判例です。
 被相続人となる者に負債がある場合には、予め財産目録で明確にしておくことが重要となりますが、負債がある状態で遺言を作成し相続分・分割方法を指定する場合には、負債の処理に関して明記するだけでなく、債権者との事前の打ち合わせ・確認作業が必要になってきます。
 負債の承継に関しては、十分すぎる、というほどの準備をしておいて良いと思います。

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